7月26日夏のオリンピックが始まりました。フランス・パリで8月11日まで行われ、ブレイクダンスなどの新競技にも注目が集まります。
そんな中、日本人の金メダル第1号は柔道女子の選手でした。日本のお家芸とも称される柔道ですが、近年では、海外にも実力ある選手が増え、日本人選手の地位を脅かしてきました。しかしながら同時に、歴史ある武道が世界各国に普及していくことに日本人としては誇りを感じる部分もあります。
柔道に限らず、剣道や空手、相撲など日本に固有の伝統スポーツがあります。それぞれに長い歴史をもちますが、相撲において外国人力士の活躍が目立つように、日本の伝統スポーツは世界中で普及してきています。
では、そうした人々はどこに魅力を感じ、それらの競技に臨んでいるのでしょうか。
おそらく、競技そのものの面白さは勿論ですが、それらを通して習得される精神力、つまり精神修養の側面もあるのではないかと思います。
武道の試合を見ていると、その試合前後で「礼に始まり、礼に終わる」ことが見てとれます。差し迫った試合の前でも、激しい戦いを繰り広げた後であっても、相手への敬意を忘れないという精神の表れであります。
こうした日本人の特異な精神性を詳述しているもので「武士道」という本があります。思想家・教育家であった新渡戸稲造が著したものです。
この本の中では、武士道とは、正義、勇気、仁愛、礼儀、誠実、名誉、忠義の7つの徳から構成される道徳体系とされます。
それら全てについて言及するのは難しいので、今回は「勇気」の章で取り上げられていたものについて紹介したいと思います。
そこでは、武士の合戦中に生じた武士道精神について述べられています。
「古今著聞集」(鎌倉時代編纂)の一節「衣のたて」において描かれたもので、
11世紀末、衣川の合戦(陸奥地方での藤原氏と源氏の争い)で安部貞任が敗走する際、追手である大将・源義家と交わした歌があります。
義家曰く、
“衣のたてはほころびにけり”
(衣川の館が崩壊している様子を揶揄している)
その挑発にも似た下の句に対して、
貞任返すに曰く、
“年を経し糸のみだれの苦しさに”
(年月を経た糸が乱れるように衣川の館も年月のほころびにより戦にこらえることができなかった)と上の句を付けた。
その上の句を聞いた義家は構えていた弓を緩めて、貞任が逃げていくのを見送ったとされています。
それを見ていた周りの人間は不思議に思いその理由を問うと、敵に激しく追われながらも心の平静を失わない武勇にすぐれた者を辱めるには及ばない、と答えました。
もうあと一歩で敵の大将を捕らえることができるタイミングであっても、互いに優雅の感情を持ち合わせ、心の平静を保つ。「武士道」を構成する「勇」の精神性を体現した例であります。
この武士道を源流に持つ勝敗を超越した高貴な精神性が、現代においては武道を通して国内外の人々に受け継がれています。
1899年にアメリカで出版されたのち、各国ヨーロッパの言語でも翻訳され世界的なベストセラーになった「武士道:Bushido The soul of Japan」。
日本人である私も、事あるごとに改めて読み直したいと思う本の一つです。