先日、旅先で立ち寄った飲み屋さんで居合わせた一回りかもっと上の男性3人が「七人の侍」の話で随分と盛り上がっていた。
日本を代表する映画監督である黒澤明が1954年に発表した作品が「七人の侍」である。
「三船敏郎があそこでさ…」「あのシーンの…」、聞き耳を立てていましたがさっぱり分からなかったのです。
黒澤明監督は、第二次世界大戦以降、国際的にも有名かつ影響力を持った人物で、スターウォーズのジョージルーカスやゴッドファーザーのカッポラなどとも親交がありました。これだけ著名とはいえ、70年近く前の映画。動画ストリーミング隆盛の現代において白黒映画を見る機会を中々掴んでこれませんでした。
ただその日以来、どうしても気になっていた「七人の侍」。見てみました。
舞台は戦国時代の農村。野武士の盗賊に対抗するために百姓に雇われた侍たちの闘いを描いた作品。
百姓に雇われた七人の侍たちがそれぞれに個性的で注目を集めてきた傾向がありますが、個人的には百姓たちの存在が特に映画の序盤では非常に印象的でした。
左 卜全(1894-1971)演じる与平(よへい)という名の百姓。彼がその言葉や表情でみせる不安や悲しみ。台詞がないときですら、その仕草や表情で読み取れる実に素朴な人間味。ドキュメンタリーなどで見るよりも、貧窮した生活苦の切実さをこれ程までに感じられたことは無いように思えました。
黒澤映画の特徴として挙げられるヒューマニズムの一端をこういった所に見てとれるような気がしました。
戦前・戦後を経験した黒澤明にとって人間性の尊重や解放を意味するヒューマニズムが彼の映画作品の軸にあり続けたとされます。
そうした人間味ある演技と当時の白黒映像が相まったことで、演者の表情や言葉に自然と目耳が集中することとなり、映像の現実味を強め、恐れや哀しみ、喜びといった様々な感情がより差し迫ったものとして心に入ってくるわけである。
「七人の侍」は、ベネチア映画祭で銀獅子賞、その前に発表された「羅生門」(1950)は最高賞である金獅子賞を獲得した。
これらの作品は日本映画が海外で認知をされるきっかけとなり、その後リメイク版が製作されるほど高い評価を受けてきた。
2020年イギリスで「Living」という映画が公開されたが、これは1952年公開「生きる」のリメイク版である。
海外において、なぜこれだけ黒澤映画が人々の心を打つのか。
言語や文化を問わない人間のむき出しの感情、だれもが奥深くに抱えるリアルな人間味を映像の中に見出すことができるからなのかもしれません。
黒澤明監督はあるインタビューでこのように言っていました。
「心の中に本当に思っていることは、作品の中に自然と出てくる。それこそが人の心を打つ。頭で映画を作ろうと思ったらダメ、心で作るつもりにならなければ」